角居勝彦Special Interview:vol.1

競馬界に対する問題意識と、引退馬に注目された背景は?

調教師になる以前から担当馬を持っていたのですが、

JRAのシステム上3歳の夏くらいまでに一勝あげないと残れないというルールの上で成り立っています。

その中でも地方に行ける馬と行けない馬がいます。

明らかに能力が足りていない馬もいますが、

ちょっとしたこちらの選択ミスとか調教のオーバーワークなどでこちらの足りていなかった部分によって

勝ち残れなかった馬たちを出してしまったのはあると思うんですね。

若い頃は、そういったことで勝ち残れなかった馬が出てしまっていたのですが、

そうなると、少し責任を感じてしまっていましてね。

若い頃に、「その後どうなるんですかねえ」なんて聞くと、

「あんまり追っかけるな」

と言われて

「ああそういうことか」ってわかったということがありましたね。

そして、調教師なってからですが、一頭二頭助けてもあんまり答えにならないし、

そういう大きなシステムで何か助ける方法はないかということを、

良い成績を出せるようになってから考えるようになりましたね。

しかし逆に、競馬は優勝劣敗の世界なんで、勝たずに負けた馬ばっかり追いかけてもね。

勝ち続けながらこういう活動をやらないとダメだなということを思いながら、

自分のモチベーションの糧としてやっていましたよ。

これまで幾度となく勝馬を輩出されてきた角居先生だからこそ、その言葉に説得力がありますね。

従業員にも「お前が失敗したら殺処分になるんだぞ。」

と言う話も、あくまで言葉として言っていました。

当然ですが従業員の働く時間というのは労働基準法で決められているし、

休みもちゃんと確保してあげなくちゃいけないけど、

手を抜くところは自分で考えてくれよということを言っていましたね。

そう言ったことも従業員にお話しされているのですね。業界ではこの話題はタブーのように感じていました。

そうですね。言葉にしたら「じゃあ調教師責任取れるの?」

というような状況になると思うんですよね。

だからそういう活動をしながらじゃないと言えない言葉ではあるかなと思います。

56歳で勇退ということですがきっかけというのは何だったのでしょうか?

輪島は祖母の作った教会があり、過疎化が進む街で、教会を守ってきた信者さんも80歳を超えてきました。

身内が作った教会なので他人に任せっぱなしではいけないという状況になってきていて、

その時点で預かっていた馬もいました。

猶予がなかったわけですが、「辞める」って決めたのはその馬たちがクラシック出てからだなと思っていたので、

それが終わって2021年で引退しました。

家業を継がれるということで引退を決意されたのですね。

引退される前からホースセラピーのプロジェクトを立ち上げられていましたが、

ホースセラピーに着目されたきっかけは何だったのでしょうか?

「勝てなかった馬たちを助ける方法は何かな」と探した時に、

いちばん最初に見つかったのがホースセラピーだったんですね。

引退した競走馬が地方競馬に行くことは分かっていたんですけど、

乗馬でこんなにたくさん利用されているっていうのはあんまりわかってなくて、

それでホースセラピーという道でも生きる道があるなら、

ホースセラピーを勉強したいなということで始めましたね。

今もプロジェクトを継続されているんですね。

はい。課題と問題点が一番多い部署ですね。ただかなりハードルが高いプロジェクトです。

「持続可能性」が世界的な課題である昨今、各産業界においてESG・SDGs等の持続可能な社会に対する取り組みが求められております。インゼルでは競走馬業界に関わる者の社会的責任として伝統ある競馬を永続的に行っていくために持続可能性を追求していかなくてはならないと考えています。

本サイトでは引退馬ケアの活動をされている方々にスポットをあててご紹介させていただきます。

それはどういったところが難しいですか?

まず、医療従事者がいないとホースセラピーにならないのです。

なので、馬だけ癒して助けるというのはあるかもしれないですが、

本当は馬を使って人を癒す、ホースアシステッドセラピーということをしなければいけないですね。

それをやっていきたかったですが、それには、医療従事者に理解があるか、技術者がどれだけいるか、

それに適応した馬がどれだけいるか、その現場があるのか、人材がいるのか、

お金があるのか。三巴(みつどもえ)で何もなかったんです。

なるほど、ホースセラピーに資格のようなものは必要ですか?

資格はないのですが決まりはあって、身体的障害もしくは精神的障害、知的障害、発達障害、高齢者、

その5つの分野で、ホースセラピーの適応する馬の形が違ってきます。

それをサポートする人たちの知識も全部変わってくるので、そうなると人材がいないし、

それをやろうと思っても、場所にお金がかかりすぎると運営できない。

基本的に一人の利用者さんに対して、インストラクター、リーダー、サイドウォーカー2人必要で、

それに馬が1頭という人員で行う必要があります。

そうすると、そのお金どうするという問題でパンクしている状態です。

かなり参入障壁が高いのですね!

そうですね。ハードルが高い。

でもできないというわけにはいかないので、

まずは引退競走馬を調教してもらって、乗用馬に転用してもらう。

乗用馬で何年かして大人しくなったら

ホースセラピーのほうに引き取っていくという形ができていけばと考えています。

乗用馬と兼用できるのでしょうか?

そうですね。兼用できるのですが、障害者が入ってこられると困るという乗馬クラブが圧倒的に多いんですね。

そうじゃなくて乗馬としていらなくなった乗馬をホースセラピーに回していく。

競走馬をリトレーニングし、乗用馬にしていくといった流れですかね。

その馬たちは、現在活動されているTCCThroughbred Community Club)での

引退馬一口馬主をされて乗用馬にしたり、ホースセラピーにしたりしているのでしょうか?

そうですね。あとそれとは少し別で、競走馬7000頭生産されていますけど、

殺処分に向かっているのは3000頭強いると思うんですね。

ただ一つの団体に託してもダメで、いろんな活動のいろんな団体や、乗馬クラブや、ホースセラピー団体に、

回しやすい形を作ってことが大事であって、僕が全部助けられるわけでないので、

いかに安価でクオリテイの高い、セラピー馬としてみなさんのそばに馬を持っていくかっというのが大事。

どういった方々が活動に賛同されていますか?

JRA、農林水産省の官僚、生産界、馬主会、騎手会、地方競馬、ファンの方々、

そういった団体を作ってやっていこうという流れになりつつありますよ。

その引退馬の一口馬主に参加される方々ってほぼほぼ競馬ファンですか?

そうですね。ほぼそうです。

実際その一口馬主されていた方もおられますし、ずっと引退馬の支援をしている人がいます。

乗馬クラブに実際入られて、この馬気に入ったから私がずっと面倒見ますっていう方もおられるのですが、

月々10万くらいかかって、それが30年も生きるってなると、一体どれくらいのお金がかかるんだと。

やっぱり途中で馬も支え切れない、自分の生活も支え切れないということになるんですね。

お互い潰れちゃうんで、そういうのってやっぱり形として良くないなと。

TCCというファンクラブで支えるっていうのはいい形だなと思いますね。

すごくいい形ですよね。斬新なアイディアですね!

角居勝彦 Sumii Katsuhiko 

1964年石川県金沢市生まれ。一般財団法人ホースコミュニティ代表理事。認定特定非営利活動法人サラブリトレーニング・ジャパン理事長。2000年に調教師免許を取得し、2001年に厩舎を開業する。以後19年間に、JRAでG1 26勝、重賞競走 計82勝を含む762の栄冠を掴む。最多勝利3回、最多賞金獲得5回など13回のJRA賞を受賞。地方、海外を合わせたG1 38勝は現役1位。デルタブルースでメルボルンカップ、シーザリオでアメリカンオークス、ヴィクトワールピサでドバイワールドカップを勝つなど国内にとどまらない活躍をする。56歳で引退。現在、現役時代から取り組んできた引退馬のセカンドキャリア支援や障がい者乗馬など福祉活動に尽力している。